「旦那について」


「廓」の人間について少しご理解いただけたところで、旦那について説明したいと思う。
旦那とは、芸妓や舞妓と、結婚とは別の形で男女関係を持ち、経済的にも支援する男性のことだ。初めて旦那を持つことを「水揚げ」という。世の男性方の中には一度は旦那になってみたいと思われる方もあると思うが、これがなかなか大変なことである。昔と違って今の、芸・舞妓は身売りできているわけではないから、3つの条件を満たさなければ話は成立しない。
まず男性が、この妓なら応援してあげてもいいな、と思い、女性の方も、この人ならと好意を持ち、そして男性の通うお茶屋の女将が、この二人なら仲を取り持ちましょう、と引き受けた場合のみである。仲を取り持つ以上は、その妓が良くなるような旦那でなければ、と女将は考えるのだ。話が成立すればお披露目ということになる。水揚げならば、姉妹筋や芸妓組合役員、舞妓衆などを料理屋へ招いてもてなし、旦那のついたお茶屋の女将の紹介でご挨拶するケースが多い。(その場合、普通は旦那本人は登場しない)地味にする時でも関係筋や芸妓役員には金封が配られるので、誰がどこのお茶屋に旦那ができたかすぐ知れるのである。
旦那になった客は「誰それさんのお父さん」とか「誰ちゃんのお兄さん」とか呼ばれて廓の中では下へも置かれない。そして廓の人間は口が堅く、決してそのことを「まち」に漏らしたりしないのである。芸妓や舞妓がお客のことを「お父さん」や「お兄さん」と呼ぶのも、その人の名前や職業を周囲の人に知られないためである。また鈴木さんなら「スーさん」、佐藤さんなら「サーさん」などと呼ぶのも同じ意図からだ。(本人同士は話の前後で良くわかっている)しかし、最近では、経済状況や税制の問題もあってか、旦那のなり手は少なくなってきているのが実状だ。これを危惧して、今年、伝統伎芸の助成や芸妓の高年齢化対策を目的として「おおきに財団」なる団体が設立されたが、旦那に代わる経済援助をおこなえるようになるにはまだ相当の時間を要しそうである。

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